小学館ガガガ文庫『人類は衰退しました』

人類は衰退しました 人類は衰退しました

著者:田中 ロミオ
販売元:小学館
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 というわけで、響きが勇者王な小学館ガガガ文庫
 その中の一作、『人類は衰退しました』を読ませていただきました。
 なんか「人間はもう終りだ!」みたいで、ステキですよね。

 戯言はともかく。
 基本的には人類の文明がほぼ消滅し、変わりに妖精という種族が新たな知的生命体として地上にいる、という話です。主人公の「わたし」(ラノベには珍しく、名前がない!)は、その調停官として、妖精の生態を探ります。基本的に妖精というのは、いわゆるコロボックルとか、そっちの類なので、なんというか、まったりした観察日記がつけられていきます。

 全体として、メルヘンチックというか不思議な雰囲気を作りつつ、最後は人間とは一線を画していた妖精たちが進化といいますか、やや人間の想像の斜め上をいく、進化を始める、見たいなエンディングです。ファンタジーの一つの形として、好感が持てるつくりになっています。
 
 また、ところどころネタがちりばめられているのも好感触。
 例えば前任の調停官の日記が
ビフテキ……酒……ビフ……酒」
 という食い倒れで終わっており、読後の「わたし」の感想が、
「ビフ酒でした」 というのは、まあいわずもがな。
 いわゆるバイオハザードのかゆうま。

 また、極度の人見知りをし、挙句の果てに美味いメシを要求する「わたし」に対し、「わたし」の祖父が放った一言、
「なんという孫」
 はかなりテンポのいい会話運びの途中に挟まれているので、思いのほかツボに入ってしまいました。

 と、ここまではいいのですが、残念な点も。

 まず、主人公の世界では文明が衰退し、歴史の寸断が起こっていて、科学技術や文化に欠落があるという解説があったにもかかわらず、後半人類の進化の課程をモチーフにして話が進んでおり、恐竜の名前や、大型哺乳類の名前がぽんぽん飛び出してきて、違和感を覚えました。
 また、「例えばアニメのロボットのような」などという世界観的に微妙な比喩を使っていたり、国が崩壊して久しいという解説があるにも関わらず「内政干渉」という言葉をつかったりというところも見受けられます。

 これが三人称小説なら、まだなんとか自己補完できるのですが、この作品は主人公の「わたし」一人称小説なので、無茶苦茶引っかかりました。そのたびに「え? この世界にそれってあるの? このキャラはその知識をもってるの?」と作品にのめりこんでいた脳がいっぺんに現実へと引き戻されてしまいます。まあ、気にしない人は気にしないでしょうが、気にする人はそこで首を捻ってしまうでしょう。

 この部分がなければ、かなり物語運びやその他の面で高水準なラノベだと思うんですが……。世界にのめりこませてくれる分、あだが際立って見えてしまうのは残念だといわざるをえないです。

 さて、ガガガ文庫ですが、体裁的には読みやすいです。
 既存のラノベ・文庫の体裁をかなり研究したフォーマットだと思います。
(実は個人的にちょっと読みにくいのが電撃文庫だったり。他と比較して、ほんの0コンマミリですが行間が広く、フォントが細めなので)
 いまのところは、メディアミックスも多いようですが、今後どうなるか楽しみな文庫ですね。

 あくまで印象としてだけですが、竹書房のZや、HJといった新世代勢力が微妙なので……。ソフトバンクのGAはポリフォニカで頑張ってますが。いまのラノベ勢力構図はどうなっているんでしょうねぇ?