堂々完結!

まほらば(12)スクウェア・エニックス小島 あきらこのアイテムの詳細を見る




 いや、よかった。



 意外に思われるかもしれないが、昨今のスクウェア・エニックス系列でちゃんと物語が進みつつ、面白いと感じつつ、上手いと思い続けたのは『スパイラル』とこの作品だけだった。

 ほかの作品は(過去の黄金期――ハーメルンロト紋、グルグル等の作品を別にすると)どうも、この三拍子がそろったものが無い。

 『鋼の錬金術師』すら、実はこの領域に達しなかった。物語が進んでおり、上手いとも思ったのだが、コミックスを買い続けるほどの意欲を掻き立てられなかったのだ。



 それだけのものが、この作品にはあったといえる。



 普通に見れば、ただの萌え作品である。しかも、古いアパートに美少女たちと同居という、手垢のこってりついた代物だ。



 しかし、この物語は、多重人格者の少女とどう接するかという意外に重い命題が含まれていた。



 これをどう解決するのか?

 という興味が、僕にここまでこの作品を買わせたと言っていい。  



 結果から言えば、至極王道且つ、もっとも期待されていた結末だった。

 いや、それが素直に喜べるからこの作品はすごい。

 

 まず、テーマを重く見せなかったのがまずこの作品の上手いところ。

 下手なことをすれば人権問題に発展しかねないデリケートな「多重人格」というテーマを、可愛い女の子キャラクターを上手く動かしてシリアスにしすぎないように、且つ感情移入できるように演出しきった。

 それでいて、物語的にしっかり組まれていて、一つのお話の中で「成し遂げるべき困難」→「解決」というながれを作っていた。



 そのうえで、鳴滝荘の人物同士のコミュニケーションや、サブキャラクター達の物語が入ってくる。これが、もう一つ内包していく家族というテーマを徐々に構築していく。



 そして、最終的に多重人格問題もその中に包括される形で解決を見る(先に書いた王道的解決がこれだ)。

 この「物語を追っていく上で何か見えてくるものある」ということが、この作品の面白さだったのではないだろうか、と思っている。

 それを露骨に出しすぎず、綺麗にまとめた作者の小島氏はすごい。

 だんだん尊敬する人が増える。まいったまいった。

 

 とはいえ後半2巻分はやや駆け足な印象を受けた。

 ヒロインである梢の影もやや薄い。



 が、それは既存の間延びした萌え作品に慣れすぎたせいかもしれない。後者も、キャラクターより何より、物語が脳に染み付く話だったと考えれば問題ないレベルか。

 褒めすぎかもしれないが、現代の「萌え」の中にあってかなりのことをやってのけた作品ということに間違いはない。



 「萌え」好きな人も、やや苦手と感じる人も手にとっていただきたい一冊だ。



※注

 ちょいとまとまりきらない感覚が自分の中であるので、後日この記事は加筆されるかもしれません。