電撃大賞受賞作レビュー(いっこ前の)!

ルカ―楽園の囚われ人たちメディアワークス七飯 宏隆このアイテムの詳細を見る




 さて、次は『ルカ』。「第11回電撃大賞」大賞受賞作である。

 実は以前一度買って読んでいたのだが、その後例の『ヘタレT水難』によって修復不能に。

 今回改めて買いなおし、読み直してのレビューである。



 あらすじ。

 崩壊した世界。その非難シェルターとして作られた施設「ペルシダー」。

 そこには全人類最後の生き残りである少女「まゆ」が愛犬「トッピー」、そして――家族と暮らしていた。



 しかし、その家族は家族ではなかった。すべて非実体のいわゆる幽霊であったのだ。

 彼らは自分がなぜ幽霊としてここにいるのかを疑問に思いながらも、人類最後の一人「まゆ」に人間のことを伝えるべく共同生活をし、教育を施したりしていく。各々が「まゆ」に失った妹や友人、子や孫を投影しながら。



 しかし、それをただ見ているものがいた。

 「ペルシダー」の管理システム。彼はヒト種最後の生き残りである「まゆ」を捕獲し、クローンを量産して人類世界を再構築しようとするのだが――。





 で、中身である。

 手放し、とまではいかない。だが、これは面白い。

 この物語は一人称、つまりあるキャラクターの視点で描かれているのであるが、それは「まゆ」でもなければ幽霊の家族の誰かでもない。問題の「ペルシダー」管理システムの視点で描かれているのである。



 中盤まで彼はひたすら登場人物たちを俯瞰で見ており、その様子を観察していく。

 後半、彼は彼らを観察したデータを蓄積した上で、彼らを利用し、己の目的を果たすため行動を起こす。が、家族たちは、大切な「まゆ」を取り戻すために、ペルシダー管理システムに挑戦していく。

 その過程で、彼もまた人が大切にするものとは何かを知っていき、最後は和解する。





 管理システムの彼は人格部分にイルカの脳を使っているため、その過程でだんだん人間の感情らしいものを得ていく(厳密に言えば一人称視点なので、表現が機械的思考から人間的思考に推移していく)。これがなかなか面白い。

 幽霊の家族達である、少年「ヒロ」、少女「アヤ」、中年女性「ハル」、老婆「ユユキ」、老父「ゲン」それぞれの思考もなかなか人間臭くて面白い。というか管理システムという機械と、人間との対決の話なので、ここが上手く描けていることはかなりプラスだ。

 また「白い服を身に纏ったまゆ」を絶滅した日本のトキに見立て、日本人が人工交配でしようとしたように、管理システムがその種の保存に専念しようとする様などは非常に皮肉が利いている。

 このあたり、かなり上手かった。



 しかし、ライトながらSF的定であり、また、作品全体の構成が凝っているために分りにくい部分も多々ある。また、その上で人物の心の動きなどを全て把握するにはそれなりの読解力を必要とする(幽霊家族たちがわかり易い反面、主観者である管理システムや物語の主軸となる「まゆ」が少々難解だ)。

 面白かったが、若干疲れた。ある程度硬めで詰め込まれた文章にもなれた僕がこれなのだから、ほかの人、とくにラノベ読者層である青少年の年齢では理解が難しいだろう。表紙絵が例によって萌え絵なので、そのあたりでイメージを補えるだろうか……。

 あと、設定的に見た場合の矛盾点(どちらかというと疑問点に近い)も少々ながら存在する。



 前記の『お留守バンシー』のように点数をつけるなら、

 青少年向け商業的視点では――65点。

 だが個人的には――90点をつけたい。

 なにより「大賞」の名に相応しい、技巧とオリジナリティにあふれた作品であったことが、この評価に強く反映されている。



 上記のような欠点はあるものの、普通にお薦めできる一本だろう。