電撃大賞受賞作レビュー!
お留守バンシーメディアワークス小河 正岳このアイテムの詳細を見る |
さて、本年度電撃大賞の大賞受賞作ということで。
例によってネタバレは注意。
さて、結論から先に言わせてもらえば、なかなか面白かった。
馬鹿で。
いや、しかしながら、この「馬鹿で」というのは敬称である。
物語の筋。
「バンシー」のアリアは綺麗好きであり家事全般が得意。
あるときアリアは主人である「ヴァンパイア」ブラド卿に、頼みごとをされる。
『昔戦った馬鹿強い聖職者が、いい年になるのに現役復帰して自分を討伐にくるらしい。私は身を隠すから、この城を任せた』
彼女は、そのヘタレヴァンパイアの言いつけを守り、
・女好きなデュラハン
・淫魔のくせに守りの堅いサキュバス
・ブラド卿の工作が下手なせいでペンギン似なガーゴイル
・体の一部があっさり脱落するリビングデット
などの愉快な仲間達と、城を守っていこうとするのだが――というもの。
ここに、数百歳だけど人間の少女の身体を乗っ取って若さを保とうとする魔女が加わって、迫り来る聖職者に備えるのだが――基本的にそれまでの間の、まったりとした日常を過ごしていく。
前半の基本的なウリは、この愉快な仲間達との日々を描く「まったりさ」だ。
しかし、いささか切れが悪く、ややたるさを覚える。
まあ、それぞれのキャラクター性を強調しつつ、徐々に物語が進んでいくので苦痛というほどではない。
ただ上記のキャラクターたちはある程度他のメディアで使われている部分も多いので、ここを強調したいのであれば、もっと部分部分が斬新でも良かったという気がする。
が、一概に否定しきれない。
この作品の面白さである「馬鹿」さが最高潮に至る部分は、聖職者との対決シーンなのである。
上の「まったりさ」はここを強調するための「嵐の前の静けさ」要素であるのだ。
……その後半。
聖職者の馬車が到着する。
アリアは彼に主人の不在を告げ、帰ってもらおうとするのだが――。
なんと、彼の目的はアリア本人であると高らかに告げる。
そして、
『バンシーの乳を吸えば、願いがかなう』
という、根拠の全くない民間伝承のもと、
『白髪に髭をたくわえた60過ぎのじいさま』が、
『見た目12歳の少女であるバンシーの乳を吸うため』に、
『その強大な聖なる(?)パワーを振りかざしながら城内を暴れまわる』
という、壮大な変態行為の図が形成されるのである。
その後、同じく聖職者を敵とする魔女が爆薬を満載して登場し、城内はしっちゃかめっちゃかに。
とりあえずその場を収めた後、結局この困った爺さんは「自分の孫が死にそうなので、藁をも掴む思いで聖職者の自分としてもありえないと分りきっている民間伝承にすがった」という事情があったということが判明。最終的にバンシーの生まれ持った家事能力の一端によって解決を見るというオチとなる。
「まったり」に始まり「変態爺さん大暴走」に終わるという、物凄いうねり――というか不条理な渦がこの作品にはある。その不条理スパイラルがこの作品の面白さである。この急転直下はすごい。リアルさに縛られた作風な自分には出来ない芸当なので、素直に尊敬する。
しかし、途中の魔女のキャラがいまいち生きていなかったり、短編を繋いだようなつくりは読み易いものの単調さも拭いきれない。逆に言えば段階を踏むことでキャラを作りつつ、読者を引き込める手法であるが、前述の「まったりさ」もあってか、余剰部分という印象も受ける。
というか作者殿へ。
「お留守バンシー」という駄洒落と「変態爺さん大暴走」を起点に話作っただろ!
と、壮絶に突っ込みたい。
「変態爺さん大暴走」は確かに馬鹿馬鹿しくて面白い。対象が幼女――の容姿である「バンシー」であることもあって、変な話だが、まあ時流には合っている。それはいい。
しかし、面白がらせ方としてはもう一ひねり欲しい。手厳しく言ってしまえば、面白い反面、結局のところ「下ネタ」で引っ掻き回すのは下策だという印象も強くしてしまうのである。
総評を言えば、面白かったし楽しめた。
しかし、自分が「『電撃文庫』の大賞受賞作」に求める面白さだったかというと、首を捻らざるをえない。
青少年向け娯楽商業としての評価は――85点。
個人的な作品総評としては――65点というあたり。
が、まあ前者の評価が高いということは「良作」ということでいいのではないだろうか。
ここで聖職者やデュラハンらの名前を記していないのも、実はあまりのネタ度のために本書を友人に貸してしまっているため、正確な名前を引けないためなのである。だから、少なくとも他人に薦められるものではある。
ネタで。
・私信
ここを見ているかどうか分らないが、最近階級をロストした某M岡氏へ。
そんなわけなので、この『お留守バンシー』をお前に強く勧めたい。
どうか?