かしましー

かしまし~ガール・ミーツ・ガール 1 (1)メディアワークスあかほり さとる, 桂 遊生丸このアイテムの詳細を見る




(※興味本位で飛んできた方、普通のメディアレポートしているわけではないので、その辺ご了承ください)



 さあ、さらにブログを混沌化させてみよう。



 アニメレビューでベムラー呼んで来いとか言いながら、実は買っていたりするこの作品。

 何やってんだ俺は。

 

 さて、例によってあかほり氏原作なわけで、狙いすぎな感がミエミエなわけで、本来なら多分買わないタイプの本であることに間違いない。

 が、なんで買ってしまったかというと、トンデモ設定を使いつつも、時流にあった作品を噛み砕いて再構築すると言う意味で、現在の僕の創作コンセプトに似ていたから。



 僕は今まで物語を書く上で、必ず時流へのリスペクトorアンチテーゼを動機の一部にしている(あくまで動機で、そこからテーマを導いて初めて書き始められるのだけれど)。

 初めて書き上げた長編『特装』は「理由なく強い女の子」へアンチテーゼだった。変でしょう? 銃持ってバンバンできて、戦うことにためらいのない女の子って。

 だから、女の子が血なまぐさい事件に遭遇してそれを如何に克服し「戦える女の子」になるかということに焦点を当てた。

 しかし、そのヒロインを主軸に置き過ぎたせいで、他のキャラクターや設定の語りがおろそかになり、失敗した。



 次に書き上げた長編『ウィッチ・イン・ザ・ブレイン』は、「妹萌え」の再解釈がテーマで、逆に妹の存在と対比して、兄が兄であるにはどうするか? といった要素を盛り込んである。

 しかし、こちらはその兄である主人公の心理的アチェンジが目立たなかった。――いやそれは意図的にニュートラルにしたものだったのだが、想像以上に心理が分りづらくなってしまったようだ。

 結構作者としては材料を振りまいたつもりだったのだが、読み手に伝わりきらなかったらしい。失敗作だ。もう一筆加えられればなんとかなりそうなのだが……。

 ちなみに現在富士見のファンタジア小説大賞に応募中。二月末に結果発表。はてさてどうなることやら。



 で、現在書いているの長編も「双子が同一人物を愛する」ということをどのように解釈するか? という要素を主軸にしている(実は、一部コンセプトが現在放映中の『仮面ライダーカブト』と被りだしているので、しばらく塩に付けておこうという気もしている)。



 長くなったが、ようは「流行の萌えとか、その辺りの要素をどう噛み砕いて、合理的にドラマにするか」ということを考えているわけで。





 ……話を戻そう。

 で、なぜこの『かしまし』を買ったのかといえば「百合モノ」要素を合理的にやるにはどうするのか? ということが計算されている気がしたからだ。



 今まで少年だった主人公はずむが、宇宙人との遭遇事故により、少女になってしまう。

 そのはずむを好いていた幼馴染の少女とまりと、はずむの憧れの人だったやす菜という少女。本来ならごく普通の三角関係だったはずが、少年が少女へと変わったために、女だけの三角関係になる。



 設定など腑に落ちないご都合的過ぎる面があるものの、そこに発生する人間関係、急に女性化してしまったはずむの心理的変化、それに対する周囲の変化は面白く見られる。

 動機や展開が強引なだけで、人物たちの動きにリアリティがありドラマとして成立しているからだろう。



 また作画の桂氏のコマ割り技術などのよさがあって、テンポ良く読めるのも良い。

 キャラ絵も妙なディフォルメを使わず――とはいえラブコメなのでそれに応じたギャグシーンは例外だが、それ以外のシリアス部分を、一コマ一コマの表情で心情を想像させる描きかたをしているのに好感が持てる。相田氏の『ガンスリンガーガール』もそうだが、メディアワークスの漫画家は微妙な表情を描き出すことで感情を演出するのが上手いと思う。

 より具体的に言うと、わかり易く「萌え」狙いでありながらも、同時にシリアスなドラマシーンを綺麗に演出できる力がある。



 個人的にジャンプ漫画のようにディフォルメしたわかり易さ特化より、合間合間の微妙な表情から、キャラクターの心理を感じ取るのが好きなタイプなので(同じ事を小説でやろうとする=微妙さで感じ取らせようとするから僕の文章は言葉足らずで分りにくく感じられてしまうのだろうが)。こういうのは好きだ。



 ちなみにギャグ漫画でも同じで『あずまんが大王』のあずま氏や『苺ましまろばらスィー氏などもギャグ漫画でありながらもそのあたりを上手く使って作っていると思う。

 『萌え』産業、美少女描写限定というのがどうにもだが、メディアワークス漫画家陣の質は高いと言える。

 

 ……また脱線。

 まあとにかく、先述の狙いすぎ感はミエミエなものの、上手く話を進めていると思うので、興味がある人は買ってみると良いかもしれない。



 しかし、ある程度練られたリアリティのある作品だからこそ設定的な穴が気になる。心はまだ少年のはずのはずむが、普通に女子更衣室で着替はじめられるのは変、とか。

 あと宇宙人の授業の遺伝子改造ヒマワリとかは、コメディとしてはありだが作品が持っているリアリティを潰しているので、個人的にはあまり好きではない。

 いや、萌え漫画に何を求めているんだといわれればそれまでだが、せっかく非現実的な三角関係を、現実味をもたせてドラマ化しているのだから、宇宙人のような突飛な現象はあくまでサブ中のサブに徹してもらったほうがまとまりがいいと思うので。



 ……あと、この手のものにはお約束だが、あんまり長くやりすぎると――作品的に安定した状態になると多分面白くなくなる。

 今はまだ面白いが、3巻辺りで止めとくのが無難かなぁ。

 編集も長々と続ける話でないことは十分承知しているだろうし(何せ、少女たちの葛藤さえ描き終えてしまえば、あとはありがちな百合系漫画で、特色を失うので)、作品そのものも4〜5巻で完結するだろう。



 と勝手な予測をしているが、「萌え」産業は儲かるらしいからなぁ。