螺旋、完結!

スパイラル~推理の絆 15 (15)スクウェア・エニックスこのアイテムの詳細を見る




 例によってネタバレ注意。

 ついに完結。ずっと追っかけ続けていた作品が、また一つ終わった。



 例によって、賛否両論が見られる、が。

 名作。

 まさに、手放しでその言葉が相応しい作品だったと言える。



 連載開始当初は、あくまでいわゆる「学園推理モノ」という『名探偵コナン』『金田一少年の事件簿』的なものだった。超優秀な兄貴「清隆」にコンプレックスを持つ少年「鳴海歩」が、新聞部の事情通「結崎ひよの」の助けをかりて殺人事件を解決していく。そしてそこに存在するブレード・チルドレンという謎の子どもたちの存在。そういうものだった。



 しかし、途中で展開変化が起こる。

 ブレード・チルドレン側の接近に端を発した、ブレードチルドレンVS鳴海歩の推理合戦――というよりは、互いの度胸と状況判断能力を駆使した知能戦へ発展していく。VS理緒&秋月編、そして、その後のカノン編である。

 ここでの戦いにおいて、歩はひよのの助けを借りながら己の弱さを悔やみ、強くなろうと成長していく。

 (今思えば、ここにおける成長が完全な心理的成長であり、連載雑誌であるスクエア・エニックス刊『少年ガンガン』ではそもそも異色であった。実によくやったと思う)



 そしてブレードチルドレンであるに関わらずブレードチルドレンを殺そうとするカノン編の後、さらなる展開変化が起こる。

 ブレードチルドレンは、ミズシロ・ヤイバと呼ばれる凶悪な男の遺伝子をうけて生まれた兄弟姉妹であり、将来殺戮者となる運命を持って生まれた存在であること。それを消そうとする存在があり、また、状況を見守ろうという存在があることが分る。ブレードチルドレンたちは、自らの運命が救われる道を模索していたのだ。

 そして歩の兄清隆によってヤイバは殺された。そして、その息子である火澄は、歩が殺す運命にあるであろうということが判明する。ブレードチルドレンたちの歩への挑戦は、すべて歩が火澄を倒す実力をつけるための複線だったのである。

 そして遭遇する火澄と歩。彼らはお互いに距離を測りながら近づくが……。



 だが、そこで、さらに重要な事実が判明する。

 鳴海歩は、兄である清隆の。火澄はヤイバのクローン体だったのだ。

 清隆は歩に火澄を殺させ、そして、結果ブレードチルドレンすべてを、最終的に自分までをも滅ぼしてもらうことで、自分とヤイバが作り出した、混沌の「螺旋」を閉じようとしたのだ。 

 しかも、クローン体の寿命は酷く短く、20歳までは生きられないということを宣告される。火澄はそれを理解して歩を仲間に引き込み、憎き清隆を殺して、共に滅んでいこうとするのだが――。



 というところが1巻〜14巻まで。

 15巻はその決着編である。



 歩が出した「理論」は、火澄を殺さず、兄を殺さず、そしてブレードチルドレンたちに希望を与えつつ、自らの残りの人生を孤独に、だが笑顔で生きることだった。ブレードチルドレンたちの中にある可能性、そして己の可能性を信じて。

 危険な螺旋を閉じようとする兄と、その主張を崩さない弟の決断。

 自分を支えていてくれた「結崎ひよの」が彼の手によって派遣された、「歩を強化し、清隆を殺させるよう成長させる」ための存在であったという衝撃の事実を伝えられ絶望の淵に立たされても、歩の意思は揺るがなかった。



 結局兄はその意思の前に屈した。

 螺旋は続くことになった。



 真実を語った後ひよのは去り、残されたブレードチルドレンたちはそれぞれの希望をもって精一杯生きようとしていく。

 そして歩は――。

 

 そんな結末だった。

 全てが理屈立っていた。

 いや、とはいえ突っ込みたいところは幾つもある。なぜヤイバの遺伝子を持った者が殺戮者として覚醒するのか――その「ブレードチルドレンの呪い」の概念とかや、そもそもヤイバ・火澄・清隆などが持っている「死なない」という力の理由など、疑問点は幾つもある。また、後半の展開(クローンと余命等のからみ)はいささか突飛すぎて、ついて行きづらいという難点、一部キャラの言動の矛盾点なども存在する。



 だが、それをすべてぶっ飛ばすだけの力が、この作品にはあった。

 「人の生きる希望と可能性に賭ける」という単純で、ファンタジックな理論なき理論。「ミステリー」というカテゴリに対する壮大なアンチテーゼ。序盤から中盤にかけて、最後のギリギリまで理屈における戦いをしてきた者たちが、希望という非論理的な、全く対極の結末に行き着くという終わり方。そのどんでん返しが、この作品を一気に深めた。



 主人公歩がそのために「完全なる絶望の淵で、孤独なまま笑って死ぬ。その生き様を、ブレードチルドレンたちの希望にしてみせる」ということに意味を見出し、それを実行しようとしていく様。そして最後のワナであり、自らの支えであったひよのと共に歩んでいく選択はできないという計算されつくされた「必要な」別離は、生まれて初めて僕に「心が締め付けられる」という印象を抱かせた。





 そして、これだけの物語展開ベクトル変動がすべて複線で、最後この15巻での主張にすべて集約されるのである。

 ぶっきらぼうな歩が、作中ひよのを全く名前で呼ばなかったということすら最後の最後で生きる!

 くそ、悔しい! 畜生! 

 叫びたいくらい上手い! 

 あーっ! こんなすげーことを考え付く奴がこの世にいるとは!



 僕が尊敬するストーリーテラーには、井上敏樹氏、都築真紀氏がいる。それに本日、城平京(しろだいら きょう)氏を。そしてそれをドラマチックに描ける極上の漫画家として水野英多氏を加えたい。



 『スパイラル 〜推理の絆〜』に!――いや、

 終わらない生への希望と可能性の螺旋。そして物語の根幹となった遺伝子の螺旋、

 「スパイラル」に。

 歩がその螺旋を信じ、究極の理論で未来を推理し、作り出した人々のつながり、

 「〜推理の絆〜」に。

 

 ここに、最大の拍手を送りたいと思う!







 注:あらすじ解説部分は、いかんせん物語が複雑なことから、かなり噛み砕いた書き方をした。また、同じ理由から解釈が間違っている部分があるかも知れないので、気がついた方は訂正をお願いしたい所存。