前日の追記。路線変更後の『響鬼』について

 「散華する斬鬼」についてあれだけプッシュして書いた後でなんなのだけれども、大筋はともかく、いろいろなところがいろいろ削られた話でもあるような気がした。

 轟鬼のリハビリ中、斬鬼威吹鬼に術の証を発見されてその場を立ち去るシーンだが、急にリハビリを止めた斬鬼に対する轟鬼のリアクションがなかったり。昨日も書いたとおり、轟鬼の怪我の無視っぷりがものすごいというのもひっかかる。



 よくよく考えれば、「散華する斬鬼」は「朱鬼」のときのように2話かけてやる話だったような気がする。轟鬼が師匠離れを決意するまでの過程や、リハビリの進行などは、二話にわけて段階的にやればその唐突さは薄れるはずだし、なにより、だんだんと意識を失っていくという反魂の術の設定が生き、それに苦しむ斬鬼、といった演出が成されても不思議でないからだ。



 『リリカルなのはA's』の話ではないが、これも尺不足による影響が出ている気がしてならない。

 平成ライダーシリーズなどを手がける井上氏と『なのは』やゲーム『とらハ』など(こちらはまだ手を出せていない……)を手がける都築氏は僕が最も尊敬し、多くの影響を受けたクリエイターであるが、この二人の共通の特徴として「長い話に密度を持たせるのが得意で、単発作品より長期連載作品向き」というのがある。

 井上氏の単発参加の作品(『鋼の錬金術師』や『ギャラクシーエンジェル』など)はあまり良いということをきかないし、都築氏は自らの同人誌において「多くの担当さんから、連載向きの人と言われる」とコメントしている。

 

 この両者が尺によるシーン切捨てをほぼ同時期にやっているのは、偶然としても面白い。もっとも、井上氏は東映バンダイのご無体のせいで、都築氏は意図的という差異はあるのだが(というかこのお二人はそもそもクリエイターとして真逆の属性の持ち主だったりする。ちょっというと井上氏は「欠けさせる」ことが上手く、都築氏は「盛り足す」ことが上手いのだが、これは自分の中で意見がまとまりきっていないので後日。)。



 ……で。

 『響鬼』の話題に戻るが、昨日書いた「大ナタ」の際、井上氏はこの作品を大幅に解釈しなおす必要があったのだと思う。

 特にキャラクターが顕著である。「オロチ」という切迫した状況と「鬼とは何か」というテーマを含ませた以上、ストーリー構図がが29話以前の「鬼と明日夢とその成長」という単純なものではなくなってしまった。なので、それぞれのキャラクターも変化を求められるようになったと思われる。



 その顕著な例として、明日夢には桐矢という人間的な対極存在を与えた。これによって明日夢はより自分が何をしたいかということを自覚し、響鬼の弟子になった。相対する他者=ライバルを出すのは、非常に理にかなった作り方である。とはいえ、これにより明日夢は、ただ純粋に響鬼にあこがれる少年ではなくなった。



 威吹鬼はただのエリート鬼ではなくなり、エリートゆえの弱さを背負うことになった。朱鬼とあきらの回で、それがしっかりと出た。そして、弟子であったあきらは自分の憎しみと向き合い、鬼になることを止めた(余談だがマジレンのヒカル先生と被りかけたというのも大きいだろうなぁ……)。



 轟鬼斬鬼は今回の放送の通り。師弟というものを見つめなおし、決着をつけた。ただの「空回り気味弟子、厳しくも優しい師匠」という立ち位置を崩した。



 それぞれに「人として欠けた部分」を付け足すことで、キャラクターたちを光らせたのだ。このあたりは井上氏が上手いところである。



 しかし、問題は残った。



 響鬼という男その人である。

 彼は運転が下手だったり、河童のガスで声が変な風に変わってボケキャラ化するなど、いろいろな欠点もある人として当初から描かれていた。

 が、人間的な欠陥というものはほとんど抱えていない人だった。

 それゆえに29話までの「カッコいい響鬼さんと、憧れる少年」という構図が出来ていたが、井上氏が手がけるに当たって、これは大きな障害だっただろう。



 響鬼は「憧れのヒーロー」として精錬されていたが故、井上氏がやりたい「人のドラマ」に相容れない存在となってしまっていたのではないか。



 実際脚本変わって一発目などは、団子屋の接客でミスを連発したりする件の大ナタ「恋する鰹」などでは「どうして恋愛と鬼の仕事混同できるんだ?」と一人感情を理解できないなど、「鬼として一流故、一般能力や感情面において気遣いが足らない」という方向性で行こうと試行錯誤が見られる。



 とはいえそれは上手くいったのかいかなかったのか。

 ここ最近の威吹鬼&あきらがらみや、轟鬼斬鬼がらみに、響鬼はうまく入り込めないでいた。桐矢と明日夢を弟子に取ることを悩んだのも、イマイチ漠然としていたし――それともあとから何か追加されるのだろうか。

 

 まあ、井上氏が手がける平成ライダーシリーズは「微妙に状況からずれた主人公」というのが多いので、これはこれでこのまま何とかなるのかもしれないが。



 さて、しっかし、この文の調子で書き連ねるのは疲れるなー。