魔法少女リリカルなのはA’s第9話 

魔法少女リリカルなのはA’s SOUND STAGE 01

キングレコード
ドラマ, 田村ゆかり, 水樹奈々, 植田佳奈, 水橋かおり, 桑谷夏子, 高橋美佳子, 久川綾, 松岡由貴, 釘宮理恵

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 商品画像はSS1なんですが、その話ではなく9話のお話。若干ネタばれ注意。



 いきなり何をと思うかもわかりませんが、前作から見てきた印象だと、今回のA’sは僕の中でイマイチな印象が拭えませんでした。

 前作は、魔法少女的な乗りを熱血でやる、というのがこの作品の重要な要素だったのですが、近作はその要素が包括していた、王道さというか、爽快さというかが薄れたので、それがテンポを欠いているように見えたからです。

 うーん、あのときの爽快感はないなーと。



 しかし、近作で完全にその認識は変わり、脚本の都築氏がもっと高次元の作品に仕上げようとする意図があることが分りました。



 7話までは闇の書の守護騎士ヴォルケンリッターをメインに描き、前作の主役級2人を、あえて感情移入できないようにしました。あくまで、闇の書事件に介入する異物という方向でヒロインたちを書いたのです。戦いを嫌う主のもと、いっしょに暮らしていきたい、でも闇の書が主の命を蝕んでいるため戦わなくてはならないヴォルケンリッターと、闇の書の危険性を重視し、それを封印しようとする「正義の」ヒロインサイド。このジレンマが前半戦のテーマです。



 で、後半戦。転換期にあたる8話で「闇の書がそもそもプログラム的に破損しており、暴走状態にある」という事実が明かされます。

 それによって、一気にまたヒロインサイドの「客観的正義性(こんな言葉しか思いつかん……)」が上がるわけですが――。

 今回9話。某所で「GGG仮面」といわれている謎の男により、さらに状況一転。ヴォルケンリッターは容赦なく全滅し、主も、仮面男の策略で闇の書の力を解き放ってしまう……。



 さてあらすじとテーマがごっちゃになって分りにくいのですが、用は今回の『なのはA’s』は、魔法少女というものの「客観的正義性」の排斥であると言えるのではないかと思います。前作では魔法少女というものを変質させただけでした。つまり、バトルを熱血にした以外、そのほかは(設定の問題はありますが)魔法少女の大筋を踏襲していたのです。

 しかし、今回はあえて魔法少女の「客観的正義性」をパージする方向に行った……。



 これは井上敏樹氏脚本の平成仮面ライダーに通じるところで、特に『龍騎』『555』はそのライダーの正義というものから「客観的正義」を捨て、「個人的正義」に変換したものでした。

 変身ヒーローは常に「世のため人のため」という陳腐ながらほぼ誰もが共感できる立て看板(これが客観的正義性なわけです)を背負っていたわけですが、井上敏樹氏はそれを排除し「人が、自らの中にある正義」を掲げてライダーを「超人ヒーロー」から「人間のヒーロー」にした。そして、その人の生き様を描ききっている。それが井上敏樹氏の尊敬できるところです。



 とはいえ、これは特撮モノではたびたびやられてきたことで、以前書いたソルブレインのレビューのようなものも確かにあったのです。

 しかし、魔法少女アニメではやられたことがなかった。セーラームーンや、今やっているプリキュアなども全て「客観的正義性」のもとで成り立っているのに、あえてそれを捨て、作品を作ることに成功したわけです。



 都築氏は平成ライダースパロボのファン(ご本人のHPより)なので、影響を受けるのは当然といえば当然なのですが……。とはいえ、魔法少女でここまで思い切ったことが出来るものなのか、と脱帽しました。女の子のキャラクターでも、これだけ重い戦いを描けるもんなんですね……。ま、もっとも、深夜向けのヲタク向け作品だから出来たといわれればそれまでなのですが。



 新しいもの作るって、こういうことなんだなぁ。

 何か要素を盛り付けたり、あるいはばっさり切ったり。



 ……。

 とはいえ『なのはA’s』、次回からは再びスポットがメインのヒロイン二人に戻っていくようです。終わらせられるかなぁ。あと4話しか残ってないですよ? 平成ライダーには1年という長期のスパンがある「主人公たち」→「敵の事情」→「主人公たちの苦悩」→「解決」という流れがやりいいんですが、1クールというのは正直しょっぱい。これをやるには、計六時間半(CMあるので実際はもっと少ない)では短すぎるのです。



 あえて今作に否定的な意見を述べるなら、この話は13話で語るには、尺が足りず、そのために1話あたりの展開を詰め込みすぎて、目まぐるし過ぎます。見始めた当初の、2クールに引き伸ばしたほうが収まりが良かったのでは? というのは相変わらず頭の中で回ってます。

 うーん、これは僕が年取ったせいなのでしょうかね?