EME

EME BLACK (3) 血に飢えし妖刀の夜

富士見書房
瀧川 武司

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 というわけで、今回は瀧川 武司氏『EME BLAKE3』で行きましょう。

 小説執筆中は、文体に酷く影響がでるといけないのであまり小説を読まないようにしているのです。一度酷く出てしまったので。その代わり、レンタルビデオなどの鑑賞が増えたりするのですが。



 さて、毎回毎回魑魅魍魎と戦う組織EME。

 今回の相手は、吸血鬼侍です。

 最近の、というか、少し前の流行ですね。



 吸血鬼侍がEMEに回収された妖刀を回収しようとし、EME隊員を次々と切り殺していきます。

 それに復讐を試みる隊員たちですが、ついに吸血鬼たちは、EME本部まで進行し――。

 というあらすじ。



 いやー、この作者さんはユーモアが効いていて好きなんですけど。

 ちょっと、今作はいただけませんでした。



 というのもこの方、戦闘などでの行為説明や、背景情報説明に入った瞬間に行変えのペースが著しく変わるのです。

 シーンによって文体が変わるのは、(ライトノベルでは)ある程度使われる手法なのですが、今作では、敵である吸血鬼の背景情報説明にその部分を多用しているため、ちょっと読む調子が損なわれている気がするのです。合計五人の吸血鬼が出てきますが、その一人一人の過去、どういう人物だったのかということが語られるわけです。

 しかしながら、今回出てくる吸血鬼は「読み手にとって」EME隊員を殺しまくる残虐非道な強い敵、というスタンスであり、キャラを掘り下げられるよりは「何らかの作戦などで、なんとか倒す対象」に徹してもらったほうが読みやすいのかと思いました。

 後の複線なのかと思いましたが、作者はあとがきにおいて「全五部作予定のうち、三番と四番を入れ替えてこの形になった」と言っているため、ちょっと考えにくいですし……。



 こと、このEMEという作品は、ただでさえキャラクターが多いので、感情移入する対象が膨らみすぎてしまい、むしろ読みにくさをましてしまっているのではないか? と懸念を抱いてしまいます。

 今作では、名前のあるキャラが二十人越えくらい出てくるので。

 しかもほぼ全員が何らかの固有の能力者なので、この人数分特殊能力があります(その説明も入ります。重い!)。主軸となる人間も、主人公以外に2、3人いるので、それぞれの視点からの説明も要るし……。まあ、救いは主人公の影が薄いことですか(オイオイ)。

 

 しかも、それだけ能力者出しておいて、うち5、6人が死にます。

 うーん、スタンドみたいなことをやりたいのかもしれませんが、ちょっともったいない気がしますねー。





 あと、個人的には吸血鬼という題材ががっかりです。結構掘りつくされた分野なので。

 話はちょっと変わるのですが、吸血鬼という題材を上手く消化したという意味では『仮面ライダー555ファイズ)』のオルフェノクが挙げられると思います。

 オルフェノクたちは血は吸わないのですが「死ぬと灰となって消滅する」「人間を侵食し、自分たちと同種の仲間を増やそうとしている」という2点から見て、吸血鬼をモデルの一部に採用していると考えられます。

 しかしがら「企業組織に従属している」「動物をモチーフとした特殊能力を持っている」「実は人類の進化系である」等々の他から持ってきた属性を付加した結果、非常にオリジナリティあふれる種族に仕立て上げられているのです。

 555について語りだすと長いので止めますが、つまり「記号を欠落させ、新たな記号を補填する」ことで、全く違ったものを作っているわけですねー。



 掘りつくされたものをうまーく捻って使う技術……うーん、難しいですねー。