煉獄のエスクード

煉獄のエスクード RAINY DAY & DAY

富士見書房
貴子 潤一郎

このアイテムの詳細を見る




 

 というわけで、何故か頭痛を押しながら読んでいた貴子 潤一郎『煉獄のエスクード』(富士見ファンタジア文庫)紹介を。

 富士見小説大賞を『12月のベロニカ』で取られております。



 個人的に貴子さんは「ありそうな設定で、捻った話を書く」方という認識。

 「ベロニカ」は、普通のファンタジー世界でありながら、構成をかなり上手く作っていた作品であり、巷のものとは一歩異なるものを見せてくれました。



 今回の『エスクード』は魔族モノ。もっと平たく言うと今流行の吸血鬼ものです。ただし、著者自身はその表現を避けたかったのか、本文中ではまったく出てきませんけど。



 しかし……個人的にはちょっと微妙かな、と。

 

 まず主人公の影が薄く、ヒロイックなノリから始まってみては、いい子ちゃんぶった発言を繰り返すキャラ、という印象が拭えませんでした。もちろん、日常を生きていた人間が、いきなり非日常に叩き込まれるという王道を踏襲していることもあり、表現として見れなくもないですが……。

 特に、実の兄の、命に関わる重大なことをほとんどスルーしているように見えたし。

 感情移入しにくいです。



 また全体的に、登場人物の行動が微妙。

 ちょっと首を捻るところもあり。

 あとは、序盤の説明がかなり後半でスルーされているということですか。

 どうやら続きモノらしいので、続巻に生きるのでしょうが、それで前半のテンポを悪くしている気がするのは残念。





 しかしもちろんお勧めするからには理由があります。

 例によって詳しくは語れませんが構成的なものにおける「ヒロインの動き」には恐れ入りました。

 ああ、これもありか……。と思わせてくれます。

 前半、別の立ち位置の人物が、実は……みたいなところも。

 さすがの構成力と発想には、恐れ入ります。

 やっぱり小説は、ただ文章うまいだけじゃだめなんだなぁ。ということを痛感させます。



 総評としては、素直に面白かったです。

 ただ『ベロニカ』が一冊完結で綺麗に落ちていたためか、第一話的のみを見せられたような消化不良感、そして登場人物それぞれの密度(レイニーと真澄というキャラ二人だけは別ですが)が薄い感じがするというのが残念なところでしょう。正直、あと一人くらいいなくても話ができてしまう気が……。



 まあ、続きモノということですし今後の展開しだいで、かなりの良作になると思います。数を出す=キャラのエピソード多くかけるわけですしね。

 しかし、登場人物たちの過去というフラグをかなりの勢いで消耗してしまったんだよなぁ……。

 あ、主人公のがありますか。