久しぶりに読んだ小説

牙狼<GARO>   暗黒魔戒騎士篇 牙狼<GARO> 暗黒魔戒騎士篇

著者:小林 雄次
販売元:朝日ソノラマ
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 遠出の電車があったので、その際に読了しました。
 どうも僕は乗りものに弱く、電車で活字が読めないのですが、iPodの御力で外周音断絶を行った結果、何とか読めるように。

 というわけで、脚本家自らが書きました牙狼の小説版です。
 しかし、なんというか……コメントに困るなぁ。

 面白かったといえば確かに面白かったのです。TV放送の裏の物語が見え、知っている人が読むと思わずそのシーンがフラッシュバックして、思わずため息をもらす、そんな小説です。

 が、逆に言えば、これはファンブックの域を出ていないとも言えます。
 オムニバスの形式を目指して書いているようなので、このあたりは仕方がないのですが、バラゴ、やカオルの父親、刑事の話などエピソードの主観者がころころと変わるので、キャラクターも追いにくいし、伴って時間軸が二転三転するので、一貫して読みにくいのはちょっと……という気もします。もちろんTVの牙狼をちゃんと見ていればいいのですが――それが前提なら、やはりこれは結局のところファンブック以上にはなりきれなかったのではないかと。ちょっと違った牙狼の物語を期待してしまっていた僕としては、少々拍子抜けでした。

 しかも、前のほうで、本編主人公鋼牙が、電車の中でのホラー狩りを行う章は≒魔戒騎士の設定を説明するための章になっているので、初めて手にとった人にもとりあえず読めるように(いい方が悪いですが)繕っている部分があったりします。小説として独立した物語をしっかりやるのか? と最初思いながら読んだのですが、結局は最後までTVのサブエピソードという側面を押し出した形になっているという、矛盾というか、どうしようもない齟齬を起こしている部分が見て取れます。

 いや、もちろん先に述べたとおり、ファンブックとするなら十二分に楽しめた作品ではありました。
 しかし、本当に牙狼ファンのために研ぎ澄ませた小説なのであれば、鋼牙の電車内での章はやや蛇足ですし、かといって、全く牙狼を知らない人が読んで楽しめるものかといわれたら、決してそうなってはいないという――なんというか、そんなアンバランスさ(?)が気になりましたね。「TV放映と同時進行でやっていた、裏話的な連載小説をまとめました」と言われればなんとか納得できる本でしょうか。

 あとアクションシーンはもうちょっと躍動感が欲しかったなぁというのは正直なところです。活字で出すのが難しいというのは重々承知の上ですが、特に暗黒騎士キバに墜ちる前のバラゴと大牙の対決のシーンでは鎧召還後、たったの7行で99.9秒のリミットがきて鎧の返還をしていたりと、少々味気ない部分もありました。牙狼の魅力はカッコいい殺陣の部分もあったので、もうちょっとそこを押していただいてもよかったかと思います。
 もちろんエピソードを語るほうを優先させた場合は、戦闘シーンというのは極めて無駄な部分でもあるので、紙幅の都合削ったのかもしれませんけど。

 ともかく、恒例によって点数をつけるなら、
 ファンブックとしては――90点。牙狼好きなら読んでみて損なし。
 小説・読み物としては――やや辛めですが60点といった感じでしょうか。

 いや、繰り返し言いますけど、面白かったんですよ。

 ただ、やっぱりそれはTV版の下地があるから、各エピソードが印象強く伝わってくるという部分が大きいのです。そして読み物として「おおっ!」と感じさせたのではない、という部分が少なからずあるからだと思います。
 もちろん小林さんの文章が下手とかそういうことではなく、このコンセプトと構成上、この形になってしまったのはわかる――けどなぁ、という感じですかね。

 うぅん、ここまでコメントに困った本は久しぶり……。
 面白いんだけど、腑に落ちないという……。