砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない富士見書房桜庭 一樹このアイテムの詳細を見る




 というわけで、今流行っているらしい桜庭一樹

 桜庭本は、うどん狐くんからも借りているんだけど、まずは薄いものを&売れ筋ラノベらしいということで、買ってみました。

 

 内容。「上手い」とは思いましたが、同時に「それほど面白いかなぁ」というのが率直な感想です。

 お話はオーソドックス、というかあっさり筋が見えます。全体のテーマを背負っている少女、海野藻屑(うみのもくず)がどうなっていくか、どういうものを抱えているかというのは、最初の遭遇シーンで大体予想がつき、どうしてその過程に至るかというのを読ませるものです。

 端的に言えば、藻屑は親から虐待を受けている事情があって、周りからかなり逸脱した行動を取る→それに付き合う主人公、という流れ。これははっきりしていて、辿っていく上での面白みがありました。お話の流れとしては秀逸です。



 しかし、キャラクターが乗らない。

 藻屑の異常さは背景がある程度あるため「変な子」を印象付け、それに伴う説得力を持っているのですが、他のキャラクターがイマイチ。



 特に主人公のなぎさ。中学生の割に明晰な思考や感性を持っている――のですが、状況の説明に徹しすぎているせいか、藻屑に対する感情が不安定なまま。しかも、肝心なところで「子どもだからなにもできない」というような理由で思考停止を行うので、あまり一人称小説の主観者として面白くありません。

 一人称小説では、その主観となっている人間がどこかで物語の材料を発見したり、話の流れを押し進めたりしなければならないので、思考などが幼いタイプや多感なタイプは非常に演出しにくいのです。このなぎさの場合、その兼ね合いが上手くいっていないのではないかと。



 次になぎさの兄貴、友彦。

 引きこもりってのは分るし、物語の滑車になる賢者ポジションっていうのもわかる。しかし、後半いろいろ行動や感情が極端すぎ。この兄貴はどう考え、なにが起因となってあの結末に行き着いたのか。うーむ、分る気はするんだがちょっと足りない。

 この兄貴と学校の先生とかは、最後のほうで急に一気に出張ってきてまとめる人なのですが――もっと上手く絡められなかったのか。



 あと、一人出てくる少年。こちらは存在意義がイマイチよくわからない。とくに主人公との微妙な関係もよくわからない。重要なイベントには絡んでいるんだけど……なんでこいつを使ったんだ作者?? あの暴力シーンの意味は?



 「弾丸」という表現も頻繁に使われる。自衛隊にいくことが要因であろうことは想像できるが、あくまで主人公なぎさの中だけの言葉なので、なんというか、重みがない。結局、主人公が自己を納得させるためだけの言葉なんだよなぁ。

 これで犯行の凶器に銃が絡んでればいろいろ違うんだけど――。





 等。

 いろいろ言いましたがなんというか「何を意図したのか?」が読みきれずに意図されたミステリー以外の要素で不可思議で気持ち悪い部分が生まれてしまったのが、僕が「面白い」と思わなかった理由でしょう。

 

 あと絵!

 これだけには非常に突っ込みたい。ラノベ、特に単発系にはときどきみられることだが、本文の記述とイラストの服装があきらかに違う。

 おいおい、プロット段階で絵を描いたのか? と思ったら、あとがきをみると違う様子。全部完成してから出したらしい。

 ???

 

 あー、気分悪いなぁもう!

 と、これが意図されたものなら僕は桜庭の術中にはまったわけか(苦笑)。