紅牙のルビーウルフ

紅牙のルビーウルフ富士見書房淡路 帆希このアイテムの詳細を見る




 はい、というわけで、富士見ファンタジア文庫、ファンタジア小説大賞の準入選作品です。

 それなりに厚さがあったので時間がかかるかと思っていましたが、意外にすんなり読めました。



 あらすじ。

 盗賊団と森の狼たちに育てられたルビーウルフは、実は幼いころに行方不明になっていたグラディウス王国の王女だった。グラディウス王国の魔法騎士ガーディアンたちに盗賊団を皆殺しにされ、強引に王城につれてこられたルビーウルフは、その騎士団の副隊長ジェイド――王女さらいをしたとされている父の汚名を晴らそうとしている――に導かれて王城を脱出するのだが、宰相の陰謀を知り、グラディウス国に対してある挑戦を挑む……。

 というものです。

 



 で、感想。

 うーん……申しわけないが60点。というか、極端に悪い作品ではないんですが準入選にはどうか? といったところでしょうか。

 以下若干ネタばれ。



 序盤はモノローグシーンと会話シーンでの説明がところどころかぶっていて、イマイチ精錬されていない感じを受けます。余分が多い。ガーディアンの説明とか、ジェイドがルビーウルフを助ける理由とかは、ルビーウルフと会話しているシーンで語っていったほうがいいのではないかと。正直、ジェイドの動機とかはプロローグだけで丸分りなので、いかに物語の中で魅せるかが重要のはず。



 中盤は、ガーディアン隊長であり宰相の息子のアーディスさん(典型的な陰謀家ですな)の過去を取ってつけたように話すので、ちょっとたるい。これは、具体的な行動や、そのほかで示すべきだった。あとちょいと人格形成に難有り。そこまで英雄譚に執着していたなら、もっと別のこと考えると思うんだけどなぁ……。



 終盤。魅せるところをもっとしっかり、盛り上げて欲しい。

 ルビーウルフが、国にためにお姫様を気取らねばならないところは、もっと書き込んで、ルビーウルフのジレンマを印象付けても良かった。というか、世界云々よりもそのあたりをウリにしたライトファンタジーのはず。

 それと、最後。

 ルビーウルフにしか使えない王家のアイテム「導きの剣」はもっと上手く使える。持ち主から離れるとクソ重くなる、でも、手を繋いでいれば大丈夫という設定と展開が中盤にあったので、最後の一撃はルビーウルフの手をとったジェイドが剣を振るって! という熱いこともできたはず。

 非常にもったいない。



 世界観・ストーリー展開はありきたりすぎ。

 精霊魔法なんでもパワー、はファンタジーの原点みたいなものなのでよい(魔法で出した氷を皮袋につめるとか)し、一般のファンタジーラノベに比べて旅シーンを長めに作ったのも『指輪物語』あたりの影響だろうが(あの綿密さにはかなわないだろうが。途中挫折組なので言及は避ける)まあ読める。

 しかし、隣国王女の登場や、その王家の秘宝の力はご都合的すぎ。まとめるため仕方ないとはいえるが、盗賊娘がお姫様設定を生かすなら、城で姫を演じながら徐々に裏をとっていく作業などをしたほうがキャラが生きたのではないか?

 あと、付属した世界地図は地形的に難しい。かなり。半島が山脈に覆われているのか……?

 

 最後に構成。

 ジェイドにシーンを取られているので、ルビーウルフのキャラクターや行動にイマイチ乗りきらないまま終わった気が。というか、作者はジェイドを書きたかったのか……? スポットを当てたいのはルビーウルフのわりに、ジェイド主観シーンが多めなのがなぁ。全体を通して一定のペースは保っていたものの、なんで? と思ってしまった。ルビーウルフの視点一本+ほんのちょっとジェイド、のほうが多分作品の主題にはあったかと。

 



 もちろん良いところもある。

 オーソドックスファンタジーということで安心して読めるし、僕が挙げた欠点も、裏を返せば展開を安定させる要素になっているともいえる。むしろそれを作者が狙っているという感じもあるので、それはそれで(とはいえやり方は他にあったと思うのだけど)。

 あと、とりあえずあっさり読めたというのもあるがこれは最近読んだのが『電気羊』だったり泉鏡花だったりしたので、その修正が多分にあるだろうと。





 ……。

 というわけで、自分が出した賞の前年度の受賞者ということで、ちょっと酷評してしまいました。批評モードに入ると、文章にやわらかさがなくなるなぁ、僕は。



 とりあえず、一応安定して読めます。

 王道としては面白いですし。

 でも、アンパイすぎるお話なので、物足りない人は至極物足りないでしょう。

 新人に斬新な何かを期待する人は、多分お肌に合いません。

 あれ、でもそれだと新人賞の意義が……。